近くには遠州灘に臨んで砂丘が広がる。 撮影/1997・9・24



 標高四〇メートル、小高い山の上にある桜ヶ池は、三方を原生林に囲まれ、深い緑色の水をたたえている。二万年ほど前、地殻の移動で形成された丘陵の谷が、南方から運ばれてきた砂によって堰き止められて出来たといわれる。
 比叡山の皇円阿闍梨は、名僧として衆生の尊敬を一身に集めていた。阿闍梨は、悟りを開くために大変な難行苦行を続けたが、この世のすべての人々を悩みと苦しみから救済するには、五十六億七千万年後に出現するはずの弥勒菩薩に会って、直接教えを請う以外に方法はないと考えた。
 しかし、人間の命には限りがある。そこで阿闍梨は、何億年も生きることのできる竜に姿を変え、桜ヶ池の底で弥勒菩薩を待つことにした。
 数年後、皇円阿闍梨の弟子である法然上人が桜ヶ池を訪れ、師である阿闍梨の供養と五穀豊穣を祈って、檜づくりのお櫃に赤飯を詰め、ひとつを池宮神社に、もうひとつを池の中央に沈めた。
 以来八百年以上にわたって、この神事は欠かすことなく続けられている。「納櫃祭」は、秋の彼岸の中日に行われ、禊ぎを済ませた十数人の若者たちが、古来からの方法で炊かれた赤飯の入ったお櫃をひとつずつ池の中央まで運んでは、一気に体重をかけて沈めていく。数日の内に空になったお櫃が浮かび上がれば、なかに納められていた願いが叶うという。


◇東海道本線の菊川駅から御前崎行きのバスに乗り、桜ヶ池で下車。車では、東名高速道路を菊川ICで下り、右折して一般道を南下、池宮神社を目指す。