韓国岳より望む大浪池は手水鉢のよう。初夏にはミヤマキリシマが色を添える。 撮影/1998・5・21

 大浪池(周囲約二キロ、深度約一二メートル)は、霧島山の最高峰、韓国岳の南西にある、ほぼ円形の火口湖。霧島四十八池のひとつ。モミ、ツガなどの樹木が密生した火口壁に囲まれ、青緑色の湖面に、つねに韓国岳の雄姿を映している。
 昔、池のほとりの村に庄屋が住んでいた。何不自由なく暮らしていたが、長く子供に恵まれなかった。庄屋夫婦は山に願をかけ、満願の日が来て妻は身ごもる。やがて生まれた女の子は「お浪」と名づけられ、両親の愛情を一身に受けて、美しく成長した。求婚者が群れをなして押しかけるが、お浪はただ淋しく微笑んで、首を横に振るばかり。
 ところが、ある時、お浪が突然病に倒れてしまう。日一日とやつれてゆき、起き上がるのさえ難しくなってしまった。
 月明かりの夜、お浪は「山の上にある池まで行ってみたい」としきりに口にする。哀れに思った庄屋は願いを聞き入れ、一緒に山の奥へと登っていった。ようやく池のほとりに出ると、お浪の瞳が突然輝き、庄屋の手を振りほどくと、池に身を投げてしまった。
 庄屋は、気も狂わんばかりにお浪の名を呼びつづけたが、二度とその姿を見ることはなかったという。
 お浪は、この池に住む竜の化身だったのだ。
 娘の名に因んだ「お浪が池」が、やがて大浪池になったという。


◇林田温泉からえびの高原方面行きバスで約一○分の大浪池登山口バス停で下車。大浪池火口壁まで、徒歩四〇分。火口壁づたいに池を一周する道がある。